メディアへの寄稿履歴 私的な「観光立国論」

【2015年9月2日 南日本新聞 ”南天” 掲載】
「少子化対策がままならず、移民政策も現実的には難しい現在、日本の最も効果的なGDPアップ戦略は『短期移民』すなわち『観光客』を増やすことである」という趣旨の本を最近読んだ。観光客を「短期移民」と捉える切り口やネーミングは新しい視点で興味深い。
この本を読んでいて、20年前東京から鹿児島に帰ってきたとき、同じような感想を持ったことを思い出す。あのとき、鹿児島の経済活性化はもはや工場誘致や公共投資で箱物を作ることではないな、と感じていた。
鹿児島の大きな資産は、身近にある大自然であり、それによってもたらされる景観の素晴らしさと思っている。しかし、観光事業にそれほど注力しているようには見えない。
しばらく観察していて、二つの大きな問題点に気がついた。一つは、自然景観などの素晴らしい資源がもともとあるので、何もしなくても来たい人は勝手に来るはずだ、という一種おごりのようなマインドである。もう一つは全く逆で、この地域にはわざわざ金を払って見に来るほどのものは何もない。だから観光など成り立たない、という考え方である。これは私の住む大隅半島などに多い。
残念ながら、どちらのマインドも観光の活性化にはつながらない。考え方を大幅にチェンジする必要があるのだ。その解決策として、これまでの観光資源の価値を異なる視点でもう一度見直してみる。昔ながらの見せ方やサービスでは現代に通じないからだ。また、全く違う目線からの意見も取り入れてみる。そうすれば、当たり前過ぎて資源とも思わなかったものに意外な価値が眠っていることが分かり、新しい観光資源になるかもしれない。
どちらにしても、あたらしい価値を発見しその情報を発信し続ける必要がある。日本では、中でも地方においては、こういったマーケティング感覚の欠如がその活性化を阻んでいるのではないか、と私は思っている。