メディアへの寄稿履歴 業界の論理
【2015年7月8日 南日本新聞 ”南天” 掲載】
税理士という仕事をしていると、さまざまな業界に、独自の理屈や考え方、習慣といったものがあることに気がつく。これはわれわれ税理士の世界にしても例外ではない。
先日、あるお客さんと雑談をしていたとき、ふと思うところがあってこんな質問をしてみた。
「例えば私が『いやぁ、特官の調査が入って参ったよ』と言ったら何のことか分かりますか」。すると「あ、それは分かります」とすぐに返事がかえってきた。「質問が簡単すぎたかな」と軽く反省しながら「では、どういう意味だと思いますか」と更に聞くと、「特殊な資格を持った現場監督の現地調査のことでしょ」とおっしゃる。
返事が早いと思ったら、やはり誤解されていた。そこで私は「いえ、僕ら税理士が『特官の調査』と使うときは『特別国税調査官による税務調査』のことを指します」と用語解説をした。
何のことはない。先方は「土木技術者による地質調査」的なものを想像されたのだ。お客さんがそういう業界に所属していたからである。双方苦笑いした後「お互い自分の世界でしかものを考えないんですね。だから丁寧な説明や親切な解説が大事なんですね」と話した。この「自分の世界でしかものを考えない」ということの弊害は、外から見ていて分かりにくい、誤解を生みやすいという点ばかりではない。下手をすれば、いつのまにかその業界の理屈や論理を他者に押し付ける、ということにもなりかねない。
どっぷりとその業界の論理に漬かっていると、他との境界線がだんだんと分からなくなるいう弊害があるのだ。このことがしばしば他者とのあつれきを生む大きな原因にもなる。今回のような笑い話で済めばいいが考えるべきところであろう。
内輪では普通に了解されていることでも、外に対してはできるだけ分かりやすく伝える必要がある。それが良好なコミュニケーションを図るための大切なポイントではないだろうか。