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メディアへの寄稿履歴 「自分探し」って・・・

【2015年12月9日 南日本新聞 ”南天” 掲載】

ちょっと前に「自分探し」という言葉が流行った。確か20代くらいの若者の間でしばしば使われていたような気がする。

「自分探し」という言葉を耳にすると、映画「スタンド・バイ・ミー」を思い出す。田舎町の少年4人が少し離れた森の中に、列車にはねられた少年の死体があると聞き、見に行く話である。自分たちも列車にはねられかけ、沼にはまり、キャンプをしながら目的地へ向かう。彼らにとっては軽い「家出」みたいなもので、けんかをしたり仲直りしたりしながら、それぞれちょっぴり成長するのだ。

「自分探しの旅」って、この「スタンド・バイ・ミー」の少年たちとどこが違うのだろうと思う。この少年たちは「自分探し」などと大層な言葉は使わない。ただ「冒険しに行くんだ」という自覚はあっただろうと思う。この「冒険に行く」という意識は分からないではない。未体験の少々危険な領域に踏み込むのは、いわば男の子の習性であり、特権でもある。

東京で過ごした大学時代、ちょっとした事情があって学業を放り出し、北海道の牧場で40日間働いたことがある。「自分探し」なんて言葉など思いつきもしなかったが、「自分の中の何かが変わるんじゃないか」と淡い期待を持って飛び込んだ。怠惰な学生生活でふやけきっていた私にとって、40日間の牧場仕事は過酷を極めた。今考えると、「自分探し」にはもってこいの体験だったかもしれない。

東京に帰った直後、私は「なんか自分は変われた」、それこそ「自分探しができた」ような気がしていた。が、結局ほとんど何も変わっていなかった。「自分探しの旅」にしろ、私のような「何かが変わるかもしれないの旅」にしろ、基本的には現実からのエスケープである。「逃げ」の先には、そう大したものは待っていないのだ。

「自分探し」などとカッコつけないで、旅行とか軽い冒険とか言ったほうがはるかに素直な気がするのだが・・・。