連載コラム MCコラム第23話 経営トップが情報発信をやり続けるべき理由―「物語」はトップしか語れない―Ⅱ
今回は前者の「物語など特にない。」というご意見に対してどう考えるか、どう対処するかをお伝えしたいのです。
「物語」として他人が興味を持つか否かについては二つの要素があります。
一つは、それを伝えた相手にとってどこか刺さる部分があるかどうか、ということです。
もう一つは、できるだけ多く人の心に訴えかけるような表現がなされているか、という点です。
前者の「相手にとって・・」というのは、こちらがアピールしようという中身に対して、そもそも全く接点や関心のない人は、どんなに波乱万丈の面白そうな物語であったとしても乗ってくることはありません。
これはまさに「相手次第」ですので、こちらがどうこうできる問題ではないのです。
しかしながら、後者は違います。
表現力が巧(たくみ)かつ豊かであれば、人々の心に引っかかってくる確立は高まるはずです。
例えば
― 時代が進み、受注が増えて工場が手狭になった時期があった。もともと生産効率も悪かったので、もっと広い現在の土地に移転した。ちょうど会社の変わり目のときだった。―
と書くのと
― 高度経済成長時代の波に乗り、受注が拡大してきたとき、今がチャンス!と捉えた。次のステージへと進むために、現在の立地へと生産拠点を移したのである。そのときまさに、時代と事業の大きな過渡期を迎えていた。―
と書くのとでは、全く同じことを言っていても伝わる印象はまるで違ってくるわけです。
前者はただの事実を言っているに過ぎませんが、後者は時代背景や当時の企業の意思というものが反映されています。
同じ事実でも表現によってこれだけ違ってくるのです。しかも、いずれも全くウソを言っている訳ではありません。
ストーリーとして他者に伝えるためにはこういった努力が必要なのです。
ただの事実だけを列挙していたのでは、社史の年表と同じものになってしまいます。
ストーリーとして伝えるためには、当時の思いや意思といったものが生き生きと表現されていなければなりません。
冒頭のお話に戻りますが、「差別化」というのはこういう細部の積み重ねといっても過言でありません。
何故ならば、こういう積み重ねは、かなり面倒に感じるため、ほとんどの経営者は初めからやろうとしないからです。
広報や広告は担当者に任せることもできますが、この手の情報発信は経営者がやるべきです。
というか、経営者にしかできません。
担当者レベルには不可能な領域なのです。
多少の汗はかかなければなりませんが、先代や自らが築いてきた自社のことですからできないはずがありません。
そのための有効なサポート(このコンサルティングが私の仕事です)をもらってでも、この情報発信は、経営者自らが先頭に立ってチャレンジしていただきたい企業にとっての重要なテーマなのです。