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連載コラム MCコラム第274話 現場に考えさせる、決めさせることの難しさ―PDCA、「報連相」について、改めて考える―  

 

先日、インターネットのビジネス欄で目にした

―ドイツ人上司に「目標管理が緩いのでは?」返ってきた意外な答え―

というコラムの中で、日本人である隅田貫氏(メッツラー・アセットマネジメント シニアアドバイザー)は、上司が不在の場合、そのとき現場にいた担当者が決済をしてしまう、というようなドイツ企業の合理性に慣れるにしたがって、も「こんなに仕事をやりやすい環境はないな」と思うようになった、と記しています。その結果、日本では仕事を管理するつもりが、人を必要以上に管理することになっているのではないか、という疑問も抱くようになるのです。

この現場にある程度の決済や判断を任せる、といったこと以外にも、隅田氏はドイツ企業の大きな方針やものの考え方について学ぶことになります。

 

その前提として、まず日本企業ではどうだったか、という点について―「圧力」をかけない上司―という小タイトルをつけた上で隅田氏は以下のように述べておられます。

―管理の典型例が、「ノルマ」の設定です。私のいたドイツの会社でも、ノルマというか、計数目標は当然あります。ただ、計数目標だけでいたずらに社員を追い込む光景は見たことがありません。

 日本の企業に勤務していたころは、目標設定業務遂行定期的な進捗状況確認状況把握、分析、反省対応協議、遂行定期的な進捗状況確認・・・といったサイクルで、常に計数目標の達成状況がチェックされ、状況によっては「叱咤激励」が飛ぶことも珍しくありませんでした。―

この、目標設定業務遂行定期的な進捗状況確認状況把握、分析、反省対応協議というサイクルは、プラン(P)目標設定(計画)→ドゥ(D)業務遂行(行動)→チェック(C)進捗状況確認(検証)→アクション(A)遂行(行動)という形式で、いわゆる「PDCAサイクル」と呼ばれているものです。

これは今でも、多くの日本企業で採用されている「目標管理」の基本的な手法ではないでしょうか。

この手法については、私の事務所でも、「しっかりとした経営計画をたてた上で、その目標を日常的にきちんと管理していきましょう」という風に、顧客企業にも推奨しているところでもあります。

しかし、正直言ってこの手法、それほど普及していません

 

先述の隅田貫氏もまた、PDCAで回していくはずである目標管理の緩さが気になったので、その疑問を上司にぶっつけてみます。

― 「目標管理がすこし緩いのではありませんか。もっと定期的に進捗をチェックしていかないと、目標必達は難しいのではありませんか?」

 そのときの上司の答えは、今でも忘れられません。―

隅田氏の言う「目標管理」は、PDCAを回すこと、即ち、プラン(P)目標設定(計画)→ドゥ(D)業務遂行(行動)→チェック(C)進捗状況確認(検証)→アクション(A)再度遂行(改善)です。

この最高の成功事例はトヨタといわれており、日本の多くの企業で採用されている事業運営手法の一つです。その、極めてスタンダードな手法について質問した隅田氏に返ってきた上司の答えとはどんなものだったのでしょうか。

 

―「スミタさん、あなたの言われることはよくわかります。私も日本で10年近く仕事をした経験がありますから。私の地位、立場からすれば、そのようなことはいとも簡単です。今からでも、すぐにできます。でも、私はそのような圧力をかけたり管理をしたりは決してしません。なぜなら、たちまち『できない理由』が数えきれないほど上がってくるだけだからです。私が知りたいのは、どのように前に進むかであって、前に進めない理由ではありません。そのような圧力では社員の士気は上がりません」―

ウーム・・・・このドイツ人上司の答えには驚かされます。まさに日本企業で普通に行なわれている「目標管理」について、真正面から否定している見解になるからです。

それどころか、こういった「目標管理」さえまだままならない日本の地方の中小企業に、それをなんとか普及させようとしている私の事務所においては、衝撃的な答えというしかありません。確かに、現場の部下ならずとも、経営者自身から「『できない理由』が数えきれないほど上がってくる」中小企業においては、この上司が言うように、考え方を変えていくしかないのかも知れない、と思います。

 

さて、隅田貫氏は、ドイツ人上司の、『できない理由』が上がってくるだけの圧力的な管理は決してしない、という予想外の回答に驚かされ、次のような感想を持つのです。

― 目から鱗が落ちる思いでした。

 確かに会社の規模や経営実態に応じて、目標管理や社員の士気向上への方策はさまざまです。ただ、私は「北風政策」ではなく「太陽政策」で社員の士気向上を図る上司の考え方に心の底から共感し、意欲を新たにしました。―

「目から鱗・・」と思えるほど、隅田氏はこのドイツ人上司の考え方に感銘を受けます。そしてこの方針を「太陽政策」と称し、心から共感しています。さらに共感したばかりでなく、新たな意欲も湧いてきているのです。

私も読んでいて「ここだ!」と、思いました。PDCAを回していく「目標管理」に何か釈然としない思いを抱いていた私は、その理由がわかりませんでした。

つまり、通常日本企業で行なわれている「目標管理」は、「北風政策」ということになります。何かノルマを課せられて、それを計画に基づいてきっちりとこなしていかなければならない的な「重み」を感じていたのかも知れません。

 

意欲を新たにした隅田氏は、次のように述べておられます。

―部下に考えさせ、リードをとった行動を促す。いちいち報告を求めない。 自主性を重んじるこうした環境は、生産性を上げるにはとても大切な点です。―

社員が自主的に考え、自主的に行動する・・・日本企業に最も欠けている点かも知れません。さらにその細かい報告もいちいち上司が求めない、となると、現在の日本企業の場合、かなり大胆な意識改革を行わなければ無理な話、ということになるのではないでしょうか。

さて、生産性を上げていくために大切なこういった環境を作り出すためには、多くの日本企業が、今後どうしていくべきか、隅田氏はこのあと、具体的な考え方や日々の行動指針のようなポイントをあげておられました。

 

ドイツ企業方式は、実際に現場ではどのように運営されていたのでしょうか。問題はなかったのでしょうか。

隅田氏は次のように書かれています。

― 実際、私の上司はのつく多忙な日々を送っていました。フェイス・トゥ・フェイスで直接話をする機会など1カ月に23度あればよいほうです。でもお互いの信頼があれば、まったく問題ありません。メールもあります。意思疎通は十分可能です。そのため、報告・連絡・相談(ほう・れん・そう)は、日本の会社時代から比べると極端に減りました。それでも十分ビジネスは進みます。

自主性が育てば、ムリ・ムダな労働時間がなくなり、生産性も上がります。

もちろん、部下の自主性を育てるには、「ただ、任せておく」だけではことは前に進みません。

 部下の不安にも寄り添いながら、距離を上手くとることではじめて、自主性が育まれ、士気向上、そして生産性向上へつながります。―

日本においてもドイツにおいても、それなりの企業の管理職が多忙なのは同じでしょう。問題はその中身です。報告・連絡・相談(ほう・れん・そう)などの間接的部分、つなぎの部分に手間と時間がかかっていたのでは、確かに生産性は上がりません。

部下にある程度の判断や決済を任せれば、「報連相」にかかる絶対的な時間は減りますので、それで特に問題がないようなら生産性は自動的に上がるはずです。で、おそらくそれで、特に問題は起こらないのではないでしょうか。

メール等の電子ツールをうまく使う、というのも現代ビジネスにおいて大事な要素です。とかくムリ・ムダが多いといわれる日本企業。隅田氏が紹介されたドイツ企業のように、余計な「管理」はできるだけ省いて、世界に伍していけるだけの「生産性」を手に入れてもらいたいものです。