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連載コラム MCコラム第268話 明らかに変化してきた「労働観」―会社に合わせるのではなく、会社を基盤に何ができるかを考える時代―  

 

例えば新卒の学生が新人として就職したならば、まず、その会社が世の中に何を提供し何で食っているかを必死で探ろうとするはずです。そうやって、一人前に仕事を覚えるまでは、ひたすら学習の連続になります。ようやく仕事を覚え、なんとか社内でのポジションが固まってきたら、その仕事が滞りなくこなせるように、自らの練度を上げていこうとするのではないでしょうか。

 

しかし、会社によっては、せっかく覚えた仕事のやり方や仕事の内容そのものが変わることがあります。そうすると、また一からその仕事を覚えるために努力することになるのです。私は、通常、地元の中小企業を相手に仕事をしていますが、大企業では、新人をまず数年ずついろいろな部署につかせて、ひと通り会社の仕事を覚えさせる、と聞いたことがあります。まあいかなる形であれ、一人の人間が一つの企業に所属し、そこで仕事を覚えていくとすれば、その間にその企業独特のカルチャーや考え方姿勢といったものに染まっていくと考えられます。

 

さてそうなると、人間はどうなっていくでしょうか。

できるだけ、その企業のカルチャーや考え方から外れないようにと思考するようになるのではないでしょうか。

つまり、なんとか自分を会社に合わせるようになっていくものと考えられます。

会社のパラダイムに自分を合わせることで、その組織の中で生きていきやすくなろうとするわけです。もちろんこれがいいとか悪いとか言っているのではありません。これは当たり前の行為であり、そうでなければ、通常の社会生活自体やっていけるわけがありません。

 

しかし、この状態が長くなればどうなるでしょうか。

おそらく、長くなればなるほど、その強力なパラダイムから逃れられなくなるのではないでしょうか。

このことが高じると、世の中には他の考え方や価値観があるということがだんだん許容できなくなってきます。社内におけるスキルや経験値は上がっていくものの、それ以上のより大きな枠組みの考え方や対処の仕方が必要となったとき、にわかには対応できなくなってしまうという可能性が出てきます。

 

私のように税理士という資格を持った職業についている場合でも似たような現象が起きます。税理士にはその業界のパラダイムというものがあり、基本的にその方針に沿って物事を考えます。そこから大きくはみ出ようとはしません。

 

例えば、現在のように中小企業の経営が苦しい時代になってきたので、「我々も税務の枠を超えて、顧客にとって有効な経営支援を行なおう。」という声が業界内に上がったとします。こんな時代ですから、前向きな税理士からそんな声が上がったとしても不思議ではありません。しかしそうすると、必ず「それは、我々の仕事の範囲内ではない。税理士法のどこにそんなことが書いてあるんだ!」という反対の声が上がってきます。その声の裏では『これまでそんな面倒なことはやったことがない。これまで通り、税務だけをやっていればいいじゃないか。』という思考が働くのです。

 

企業内でも似たようなことが起きます。社員には、基本的に「せっかく与えられた仕事を覚えたのに、また新しいことをやれ、と言われたのではたまったものではない。このまま、これまでの仕事だけを続けさせて欲しい。」という、現状維持を望む保守的な心理が働きます。「今まで見たことも聞いたこともないような、新しい仕事をどんどん与えて欲しい。」と考える社員はまれです。

つまり、ようやく与えられたポジションで自分のやるべき仕事を覚え、会社の考え方やカルチャー、風土といったパラダイムも受け入れることができたとすれば、新しい仕事や試みにはアレルギー反応を示すというのが、普通の人間の心理と言っていいでしょう。

 

しかしこれからは、そんなことは言っていられない時代になってきます。とにかく世の中の変化が激しいので、企業も個人もそれまで身につけてきた考え方や専門性の枠の中に留まっているわけにはいきません。

いろいろな制約や枠をどんどんはみ出して、新しい発想やアイデアを出していかなければならない時代になったのです。

 

そうなると、企業が新たな分野にチャレンジしていくことはもちろんですが、個人も自分の考え方やポジショニングについて考えていかなければなりません。これまでひたすら、会社で覚えた仕事を、会社の風土や方針にしたがってこなしていればそれでよかった、という姿勢を180度変えていく必要があります。

つまり、会社で覚えた仕事を土台にしてさらに何ができるか、と考えていかなければならないのです。

 

与えられた仕事を無難にこなしていればそれで安泰、という時代はとっくに終わりました。

世の中の変化があまりに激しいので、今では一つの仕事の賞味期限がどんどん短くなっています。

常に新しいことにチャレンジしていかなければならないのです。

 

ただそうなると、企業側もこれまでの姿勢を変えていく必要があります。

現場社員からの風通しを良くして、新しいアイデアや提案をどんどん受け入れていく風土を醸成しなければなりません。

トップダウンが当たり前でそういった風土ではなかったとすれば、ほとんどパラダイムチェンジといった荒療治を行なう必要があるかも知れません。

 

私がお勧めしている「情報発信(アウトプット)」にも同様のことが言えます。

企業自体が自らをメディア化して、どんどん「情報発信(アウトプット)」していくなどという考え方は、経営者にも社員側にもなかった発想です。これはアウトプットの環境がまるで変ってしまった(いい方向に)ので可能になったのです。

この波をつかみ切るか否かは、その企業の姿勢にかかっています。

とりわけ、経営者の責任は重いといえましょう。

 

いずれにしても、これまでの会社と社員の関係というものが、大きく変わっていく時代であることは間違いないのです。

時代の変化に合わせて自在に柔軟に自らを変化させていく・・・

これが、これからの企業にも個人にも突きつけられた大きな命題なのではないでしょうか。