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連載コラム MCコラム第137話 単なるおしゃべりとアウトプットとは違うことを知ろう―「聞き上手」は良き情報発信者への第一歩―

 

仕事がら、多くの経営者とお話ししますが、本当の意味での「聞き上手」という方は少ないものです。

逆にこちらの話の腰を折ったり、会話の流れなど関係なく自分の言いたいことだけをしゃべり始める人の方がはるかに多いのです。その割合は2対8くらいでしょうか。いや1対9くらいかも知れません。とにかくそれくらい「押し」の強い方が多いのが経営者の特徴ともいえるでしょう。

 

「聞き上手」といっても、もともとあまりしゃべることが得意ではない方もいらっしゃいますので、真の意味での「良い聞き手」というのは、もっと少ないのかも知れません。じっと相手の言うことを聞いていて、短い的確な言葉で切り返してくる、或いは、予想を超えた鋭い切り口を見せてくれる、といった人は本当に少ないものです。

 

ところで、私のテーマは「情報発信」即ち「アウトプット」ですので、これまでも、インプットとアウトプットの関係、その捉え方、方法論などについては様々な形でお伝えしてきました。

このインプットとアウトプットの関係について改めて考えたとき、その最も身近な事例は「会話」ということになります。

「聞く」という行為がインプットだとすれば「しゃべる」という行為はアウトプットということになるからです。我々は日常会話を通じてインプットとアウトプットを繰り返しているわけです。

 

私は「大いに「情報発信」即ち「アウトプット」を実践してください。それが事業の発展にもつながりますよ。」と言っている立場ですから、よくしゃべる経営者はアウトプットの良き実践者ということになります・・・・しかし、ここでよく考えなければなりません。「よくしゃべる経営者」が、本当に「良きアウトプット実践者」なのでしょうか。

 

通常、「情報発信」即ち「アウトプット」は、書いた言葉(文字)かしゃべった言葉(音声)を通じて行なわれます。

近年は画像、映像もSNSなどに簡単にアップできますので、これらも重要な伝達手段ですが、基本的には「言葉」を通じて行なわれるのが「情報発信」です。

日常生活の中で、頻繁に行なわれる会話或いは対話が、この「言葉」による最も身近な「情報発信手段」だとすれば、よくしゃべることが多くの「情報発信」を実践していることになるはずですが、本当にそうでしょうか。

 

結論から言えば、よくしゃべることが、私の推奨する「情報発信」を行なっていることにはなりません。

人の話を聞かずに、或いは人の話の腰を折ってまでしゃべるのは、大抵は単なる言葉の垂れ流しに過ぎないのです。ほとんどの場合、大した内容が伴っていないケースの方が多いのです。

 

私が申し上げている「情報発信」には、もっと重要な意味と役割があります。それは、自分の言いたいことだけをベラベラしゃべる行為とは全く異なるものだ、ということを自覚してもらいたいのです。

 

経営者にとって「会話」或いは「対話」というのは、大事な役割があります。

それは「徹底的にインプットの場」だということです。

 

ディスカッションやディベートといった特殊な意見のやり取りの場でもない限り、普段の「会話」はインプットの場、と完全に割り切ってもいいくらいなのです。それが、取引先であっても出入りの業者であっても業界の付き合いであっても或いは部下であっても、会話は、基本的には自分にとって「情報収集」即ち「インプット」の場、と捉えるべきです。

 

もちろん会話はキャッチボールですから、何も言わないというわけにはいきませんが、こちらから発する言葉は的確で短いものにとどめ、できるだけ相手の話を聞くようにするべきなのです。何故でしょうか。

 

それはせっかくのチャンスをインプットに使わなければもったいないからです。

我々には、読書やニュース映像、テレビのビジネス特集など、インプットの場はほかにもいろいろあります。

しかし、そういったメディアの1次加工がなされていない本当の生(なま)の情報は、直接の会話からしか得られません。

しかも、経営者という立場であれば、先方は頼まなくてもいろいろなことを教えてくれます。こんなチャンスを、こちらが一方的しゃべることでつぶしてしまってはまことにもったいないのです。

 

しかし、他者との生の会話を、こういう風に意味のあるもの、と捉えている経営者は少数派です。

先述しましたように、こちら側がしゃべり過ぎることで、せっかくの貴重な時間を浪費している人の方がはるかに多いのです。

 

会話が徹底したインプットの場だとしたら、それでは「情報発信」即ちアウトプットはどうすればいいのでしょうか。

それはこれまでも様々な形で述べてきましたように、SNS、地方メディア、業界紙、講演、セミナーなどを通じて、きちんと自分の頭の中で一度整備した言葉で行なうべきなのです。

 

つまり、アウトプットというのは、その場で流れていく会話と違い、一度立ち止まって、経営者として「情報発信」するにふさわしい内容とレベルのものに整形してから行なわなければなりません。

そうでなければ、経営者としての「情報発信」の意味がないのです。

 

しかしながら、むしろ普段の会話の中で一方的によくしゃべる経営者ほど、こういった大事な「情報発信」を実践していません。普段、饒舌な人ほど、肝心な「情報発信」はおろそかなのです。普段のおしゃべりなどどうでもいいので、きちんとした「情報発信」こそ、ちゃんとやるべきなのにです。

 

唯一、会話の中に「情報発信」に通じる意味があるとすれば、まだ頭の中でぼんやりとしかイメージされていなかったものが、しゃべることで整理されるということがあります。

しゃべることの効用が、こういう形で結実することは時々見られる現象で、これなどは「しゃべり」の効果が得られた、と捉えてもいいのではないでしょうか。

 

ただし、この「効用」については、それが本当の意味での「効用」となるための条件があります。

それは、しゃべったあと、必ずその整理された考えを文字で記録するということです。

そしてそれを、いずれちゃんとした形にして「情報発信」しなければなりません。そこまでやらなければ、そのおしゃべりに意味があったとは言えないのです。

 

いずれにしても、基本的には「会話」はインプットの場だ、と心得るべきです。

そして「聞き上手」に徹するべきです。

あなたが、またいつもと同じことをしゃべっているとしたら、それはかなりもったいない時間の使い方、と大いに自省してください。